後編 その本庄先生と奥様が豪太氏が博士号を取得された御祝の為に、アメリカから2012年5月末に来日されました。昨年、田渕先生とアメリカ美術研修の旅をした折ボストンでお会いしたかったのですが、お孫さんの誕生や先生の学会での発表の時期と重なり面談が実現できなかったのです。 青梅にある田渕先生の工房に本庄先生ご夫妻をお連れしました。奥様は田渕先生のエベレストの絵を見たとたん「ウワ―、これはすごい、すごい」と感嘆の声をあげられました。予想通り2人の巨人の対話は、実に深遠なものとなりました。 本庄先生の研究は、地球の生命はいったいどこから来たのかを調べるもので、主に深海に生命は存在するのか、その発生のメカニズムを研究するものです。本庄先生によれば、つい100年ほど前までは、海には生命は存在しないというのが通説であったそうです。深い深い海の底は、光は届かないまっ暗闇で物凄い圧力がかかり、だいいち食料となるエサすらないという認識でした。それがイギリスの一青年がアイルランド南の海底4000mからナマコのような生命体を発見したのは1870年代のことでした。ところがその生命はいったい何によって生きているのか、食料の存在は謎のままでした。 本庄先生は、きっと海上の太陽の恵みが深い海の底まで降りているに違いない、という仮説を立て(バイオロジカルポンプ・生命ポンプ)それを調べる為の機械を設計し実証をされたのでした。それは、海の上に約3トンの浮力をもつブイを浮かし、そこから4000〜5000mのワイヤーをつるし海底に届くと固定し、節目節目にロート状の箱をおき、電波信号で上部蓋の開閉を行い一定期間の沈殿物を調べるというものでした。そうしたらちゃんと落ちていたのです。どんどん落ちているのが分かったのです。本庄先生の研究によって、ついに海底での生命存在のメカニズムが解明されたのです。 それはどういうメカニズムかというと、海上近くで動物性プランクトンを他のプランクトンが捕食します。そのプランクトンの糞尿はいわばバイオミネラル(鉱物)で重量を持つのです。太陽の恵みが生物の糞尿となって、どんどん下に下にと落ちて行ったのです。そして海底の生命を養っていたのです。本庄先生は「調べていたら全部用意されていたのです。何と自然とは生命とは宇宙とは不思議なものなのでしょうか」と感動されていました。あわせてCO2も海底2000mより下にそれを貯めるタンクがあり、シールドされているのだそうです。それによって地球の温度が保たれ生命の活動が保護されるのです。海底の生物にこのエサを与えるメカニズムの解明が、地球に生命が存在するメカニズムの解明に役立ったのです。 そして「最近では地球上の生命の大半は、海底に存在しているということが分かってきました。RNA(リボ核酸)を海底から採取して傷つけないで地上に持ってくる技術が確立したのです。それによって地球上の生物はいったいどこから発生したのか、他の惑星から偶然運ばれてきたのか、地球の中から生まれたのか、長年の疑問に答えが出されようとしています。私は海底の地殻の中の溶岩がふき上がってくるベントから、その中から偶然にRNAが生まれたのではないかと確信しています」と言われていました。 そして「液体でも気体でも物質の中に遺伝のメカニズムとしてのRNAが生まれ、同じものをつくる途中でミューテーション(ときどき間違える)が起こり、スピーシス(種)となりダーウィンニズム(退化と進化)が始まったのではないかと思っています」。本庄先生は、真剣なまなざしで話されました。 一方田渕先生は、芸術を擁護することの必要性を熱っぽく説きました。水を守る心と芸術を守る心とは、全く共通する心だ。という結論でした。田渕先生の芸術論は他の機会に譲る事にしますが、是非一度本物の素晴らしい絵画をご覧になって下さい。(※3) 大人の探検学校のお話しが、地球生命の誕生のお話まで行ってしまいましたが、これほどワクワクするお話もないのではないかと思い紹介させていただきました。 ※3)田渕隆三・東京展 オープニング懇談会2012年7月7日(土)17時〜19時 |