第2479回 丸の内朝飯会 平成28年12月15日午前7:30~8:45
※本稿は、当日の内容をベースに一部加筆訂正しました。 10時間10分でフィニッシュ 最初に、ホノルルマラソンのゴール・フィニッシュの時の写真をお見せします。フルマラソンと同じ42.195kmの距離ですが、タイムは10時間10分かかりました。したがって、正確には完走記というよりは、完歩記と呼ぶべきで、そういうわけでタイトルを初めからそのようにいたしました。 今回は、75歳で初マラソンをホノルルで走ることとなった三石喬(たかし)さんという方のエスコートで参加しました。 中斎塾という論語の勉強会がありまして、私は、それにも参加しているのですが、そのメンバーの1人がその方で、ある時「75歳だけど、マラソンが走れるだろうか」といわれるので「じゃあ、一緒に行きますか、私が面倒を見させていただきますよ」と提案したところ「では、行きましょう」と、こういう経緯から、奥様、お姉様と、ご家族ぐるみで一緒に行くこととなりました。 言い出した手前、何かあってはならないから、無理をせず、できるだけ飛ばさず、ペースをゆっくりすることに努めました。その結果、その方も見事完走となり、肩の荷がおりたところです。 時速を計算すると、10時間10分かかったというのは、途中の休憩を入れての時間ですから、それを引くと、だいたい時速4kmといったところです。 時計はスタート時刻から10時間27分くらいとなっていましたが、全部で3万人の参加者数ですから、よーいどんと鳴ってから、私たちがスタートラインを通過するまで數10分かかっています。ということで、私たちのタイムはスタートラインにたどり着いてからということです。 世界中からリアルタイムに 当日、実際に私が着けたゼッケンですが、非常にいい番号で、22221番です。 このゼッケンですが、ハイテクに作られていて、大変軽くて雨に濡れても大丈夫です。その上、裏にICチップが組み込まれていて、コース上5キロごとにラインが引かれているのですが、そこを通過するたびにチェックされるようになっていて、インターネットで全世界からリアルタイムに参加ランナーの位置がわかる仕組みになっています。 それで、私の横を走っていた人などは、携帯で話していると思ったら「今、お母さんから電話で『そのペースでいいから』と言われました」というようなことになっていました。 ですから嘘がつけません。 一昨日、東京に戻って会社に出たときに「タイムは?」と聞かれたので、「5時間くらい……」と答えかけたら、加藤さんという横にいた人が「竹岡さん、10時間10分でしたね」と、しっかりバレていました。 パソコンにホノルルマラソンと私の名前を入れて検索すると、5キロごとの通過タイムが、世界のどこにいても誰もが、しかもリアルタイムにわかってしまうという、そんな時代です。 ポカリスエットと羊羹で歩き切る それで、ときどきは走りましたが、42.195kmをほぼ10時間歩くということは、朝5時にスタートするとゴールは午後3時半頃となったわけですが、長時間になりまして、ともするとシャリバテというエネルギー切れの状態になる危険性がありました。 それが、そうならずに済みました。何が一番役に立ったかというと、ポカリスエットの粉末と虎屋の羊羹でした。 ポカリスエットは2袋、羊羹は小型のものを5つほど、背負ったリュックに入れておきました。 給水は途中でいくらでもできるので、飛行機で出た飲み物の小さなペットボトルを取っておいて空にして、それに水を入れて飲むのですが、水だけだとどうしても筋肉がもたなくて、つったりします。脱水症状を防ぐために水分補給は必須ですが、水だけ補給し続けると、体液を薄めることになり、ナトリウムやカリウムといった電解質(イオン)の体内濃度が薄まります。電解質不足は、筋肉のつる原因となるのです。 そこで、水にポカリを溶かして飲んで、羊羹を途中で食べました。 それが、10時間、体がもった秘訣でした。これは、自身の経験から断言できます。 逆に言えば、何かの時にポカリスエットと羊羹があれば、3日ぐらいは生きられるということではないかと思いました。 特に、ポカリスエットは優れていると言えます。脱水症状を防ぐだけでなく、体液に近い割合で電解質を含んでいるために、足がつって困るという心配もしなくてよい。そういうことから、非常食としてお勧めいたします。 花と海のマラソンコース 私自身は、ホノルルマラソンは、去年に続いて2回目でした。 実は、エントリーは過去6回ばかりしていました。その都度、直前で所用ができて、なかなか実現できずにいました。 マラソンコースは、スタート地点は、ホノルルの有名なショッピングセンターのあるアラモアナです。それは、コースの西にありまして、いったん、さらに西に3kmほどダウンタウン方面に走った後、折り返して、東のダイヤモンドヘッド方面へ向かいます。 ダイヤモンドヘッド近辺は、山に向かって上り坂になっていて、そこを過ぎると下り坂になりますが、下って行くと高速道路(カラニアナオレ・ハイウェイ)に入ります。配布された地図を見ると、ダイアモンドヘッドから坂を下った地点は18km地点で、そこから24km過ぎまで、ずっと高速道路です。 この高速道路は片側3車線の広いもので、その片側を車両通行止にして、有名なゴルフ場のワイアラエ・カントリークラブ越しの美しい海を見ながら走って、オアフ島の東の端に近いハワイカイという美しい入江のある高級住宅街でUターンしてきます。 全コース非常に風光明媚なコースになっています。花もあって、海と逆側を見ると山の景色もあるという気持ちのいいコースです。皆さんにも是非ご参加されんことを、お勧めいたします。 かち歩き大会 続いて、かち歩き大会ということについて、お話しいたします。 これは、青少年交友協会という公益社団法人の主催するもので、毎年2回、3月と11月に、新宿から青梅まで、43kmの距離を歩きましょうという企画です。 去年、私も参加してまいりましたが、この目的は、1、健康と体力の向上、2、心身の鍛錬、3、飢え、乾き、疲労の体験、4、自己への挑戦を目的とし、長い距離を飲まない・食べないで歩く。 要するに、飲まず食わず走らずの三原則で行うということです。とはいえ、当然、危機管理上、水は途中で飲みますが、防災対策から、いつか必ずやって来る大震災に際して、自分で歩いて家に帰らざるを得ないときのために、果たして新宿の中央公園から青梅まで、どこまで歩けるだろうか、あるいはそうしたときに、自分の体はどうなるのかということを実体験して、体で知ってもらおうというところに開催意図があります。したがって、順位や時間を競うことはしません。 私の場合は、小平までは行けました。距離にすると20kmくらいですが、このくらいまでは、普通の人でも飲まず食わずで歩けるということが、体感できました。 ともかくこの企画は、大変いい企画だということで、文部科学省やNHK、東京都と沿線自治体、大手企業が後援・協賛し、日本財団といったところも特別協賛しています。私も、こういった企画は、もっと開かれてもいいのではないかと思っております。 ちなみに、順位を競うものではありませんが、何番めかといったことは発表されておりまして、私の場合、昨年(2015年)3月15日の大会ですが、597位となっております。全参加者が1157人、完歩者987人と発表されていますから、ちょうど真ん中あたりの順位となります。時間は10時間が制限時間となっていましたが、私の場合は、ゆっくりゆっくりのペースでしたから、9時間ほどでした。 両陛下がご採用になった健康法 ホノルルマラソンも、かち歩き大会も、これまでお話ししたとおり、私は、ゆっくりしたペースで歩きました。 それには、裏付けがありました。 その裏付けの1つが「スロージョギング」で、ここで『スロージョギング健康法』(朝日新聞出版)という本をご紹介したいと思います。 これは、福岡大学のスポーツ科学部教授、田中宏暁先生が書かれたものです。 実は、この田中先生と今回のホノルルマラソンで合流いたしておりました。当日は、田中先生の教えておられる方が10数人参加されており、ほとんどが初マラソンでした。 田中先生の理論は「スロージョギング」という名称のとおりで、ゆっくり走るということです。私が、今回のホノルルマラソンを歩くことにしたのは、この本を読んでいたからです。 この「スロージョギング」は、既に10年以上前から提唱されていたものですが、天皇皇后両陛下もご採用になっていて、昨年(2015年)10月20日、皇后陛下の81歳のお誕生日を記念して、それをなさっておられる映像が宮内庁から公開されたことがあって、これを契機に各放送局が注目して、田中先生は引っ張りだこになりまして、裾野が広がることとなりました。 報道によると、両陛下は、毎朝6時半から30分ほどかけて皇居の庭1kmほどの散策を日課とされておられ、その途中で3カ所、計約300mをスロージョギングされているとのことでした。 「スロージョギング」とは それで、「スロージョギング」とは、実際にはどうするのかですが、本の中に「『ゆっくり走る』コツをつかんで気軽に今日から走り始めよう!」と、タイトルの付いたページがありますので、これを引かせていただきます。 「『ジョギング』とはそもそも『ゆっくり走る』ことです。しかし、見た目にゆっくり走っているようでも胸が高鳴り、息が荒くなる人が少なくありません。つまり、激しい運動になってしまう人が実に多いのです。 適度なランニングは素晴らしい健康法です。しかし、自分がゆっくり走っているつもりのジョギングが激しい運動、つまりきつい運動になってしまっては、走るのが嫌いになるのも無理はありません」と、あります。 このとおりで、だいたい走るのが嫌だという人は、苦しいからです。子供の頃、走るといえば徒競走で、苦しいものでした。それが基盤にあって「走る」=「苦しい」、嫌だとなっている。 田中先生の理論は、いわばそのような人のためのもので「この本でお勧めするジョギング法は実に簡単で、全く走ったことのない人、運動が苦手な人でも、すぐに楽しく走れる、ゆっくりペースのジョギングです」と前置きされています。 また、この次が重要で、これを実践することによってどういった効果があるのかですが、「そんな簡単な運動なのに、生活習慣病の予防ができ、メタボが改善、減量効果もあり、さらに脳が活性化されるなど、よいことばかり。おまけに1年もたたずにフルマラソンが完走できるほどの体力がつくのです」とされていて、実際に、田中先生に付いてホノルルマラソンで初マラソンされた10数名のうち、7人が完走されました。 5つのポイント いよいよその方法ですが、「スロージョギングのポイントは実に簡単」として、次の5つが上げられています。 1 ニコニコペースで走る 1の「ニコニコペースで走る」とは、一緒に走る人とニコニコと話をできるくらいの余裕を持ってゆっくりと、ということです。 2の「足の指の付け根で着地する」とは、かかとから着地しないで、母指球のところ、つまり足の親指の付け根から、足の前の方で着地するフォームを心がけるということです。 3の「アゴは上げて、目線は遠方に」とは、姿勢を前かがみにしないということです。その方が、足が上がるということです。 4の「口を開けて、呼吸は自然のままに」とは、よく、息を吸ったり吐いたりは、こうしなさいと説くことがありますが、それはあまり気にする必要はない。自分にとって楽な呼吸法で、ニコニコと走ることが大事ということです。 5の「1日の目標はトータル30~60分」とは、初めから無理をしないということです。 そして、この5つを上げた後、田中先生は言います。 「これだけです。この本を読み終わったら、すぐにシューズを履いて走り始められる、それがスロージョギングなのです」 ということなので、早速、この場でやってみましょう。体にいいことですし、これに効果があることについても、科学的根拠、エビデンスが証明されていますから。 田中先生の福岡大学では、これまでスロージョギングに関する様々なデータが集計・分析されていて、長期的に見て、血糖値、血圧、肥満度といったものが、すべて正常値に近づいていくことが、明確に数値に現れているとのことです。 それで、大事なのは歩幅で、目安としては肩幅以下に狭くして、回転を速くすることです。それと、足は、外向きでもなく内向きでもなく、進行方向にまっすぐに出すことです。 歩幅を狭くすると、家の中でも実践できます。ニコニコを忘れずに。 【ここで、参加者全員でスロージョギングをしながら部屋の中を1周する】 衝撃を軽くする着地法 足の指の付け根から着地するという着地の仕方は大事です。逆にかかとから着地してみてください。強い衝撃が来て、足を痛めることになって危険です。それに対して、足の先、母子球から着くようにしたら、衝撃は弱く、足を痛める心配がないのです。かかとから着くのに比べて、衝撃は3分の1となるとのことです。 かつて、速く走れるという観点から、かかと着地を提唱した人いて、その考えは、ある程度普及しましたから、今でもその方が良いと思っている人も多いようです。 実は、それを提唱したのは、アメリカのビル・バウワーマンという人物です。 バウワーマンは、1950年代半ばから手作りのランニングシューズを作るようになって、それを履いて走った選手が、次々と良い成績を出したことから、評判になりました。1960年代には、自ら運動靴メーカーを立ち上げています。これが後に、有名なナイキになりました。 ところで、この人の作った運動靴は、クッションになるように、かかとが厚く作られています。 つまり、かかと着地の走り方は、強い衝撃が伴うことを、意識していたということです。 アスリートの場合は、スピードを優先して、かかと着地を選択するのも頷けますが、われわれの場合は健康法としてするものですから、体へのダメージを考えて、足の指の付け根から着地するのがやはり良いということになります。 また、足の付け根からの着地の場合、ナイキのような厚く柔らかいかかとの靴と、薄く硬い靴とは、その衝撃はなんら変わらないことがわかっています。 さらに言えば、足の指の付け根からの着地に比べて、かかと着地が必ずしも速く走れる走法ではないことも、わかってきました。かかと着地は、むしろ、ブレーキをかけることになっているとの説もあります。 そうすると、今となっては、かかと着地は、ナイキの靴を売らんがための理論であったとの言われ方をされるようにもなっています。 ともかく、安全な走り方をするべきだということで、足の指の付け根からの着地を提唱するわけです。 脈拍数を無理なく上げる スロージョギングは、ここで皆さんに試していただいたように、室内でもできますし、もちろん戸外でもできますから、どこでも少しの時間でも手軽にできる健康法です。 室内でする場合、1分間で200回くらいが目安だと思いますが、小刻みに回転を速くすると、苦しくないのに脈拍数が上がっていきます。 これが大事で、だいたい120くらいまで脈拍数が上がります。 1分走ったら少しゆっくり歩いてと、メリハリをつけて、これを繰り返します。少し苦しくなってきたら歩くということです。「もう嫌だ、ヤメた」とならないように、呼吸を整えてやるということです。 無理なく、脈拍数を上げる。これがスロージョギングの秘訣です。 天皇皇后両陛下が実践されるようになったのも、このような内容であったからです。事前に宮内庁でいろいろなものを研究して、これなら健康に一番良く、陛下にお勧めしていいとなったようです。 ゴルフと組み合わせる 私のことで言えば、好きなゴルフのとき、普通ならカートで移動しますが、この頃は、このスロージョギングで移動しています。 ところで、一般的なゴルフの場合、9ホール2本で18ホールをまわりますが、これでは1日かかってしまいます。 最近は、休日でも家庭サービスなどで皆忙しく、1日中ゴルフに費やすということも難しくなっています。 それもあって、田中先生とも相談しているのですが、半日で終わるように、たとえば6ホール2回で12ホールといった独自のルールを作って、移動はスロージョギングするという競技を、健康法として普及させていったらいいのではないかとも考えています。 インターバル速歩 もう1つ、実に正確なエビデンスが取れている方法があります。 それが『10歳若返る「インターバル速歩」』というものです。 これは、私が常に連携を取っている先生の一人で、今年退官されると聞いていますが、現在、信州大学の大学院教授の能勢博先生によるものです。 内容は「ゆっくり歩き」と「早歩き」を3分ずつ交互に行うウォーキング法です。 原理は、脈拍数を上げるということでは、スロージョギングと同じと言えます。 「早歩き」は「走る」とは違って、足を高く上げずに、片方の足は常に地面に着けて進むということで、より足への負担が少なくなります。 ゆっくり歩くだけでは、効果は期待できなくて、少し脈拍数を上げないと、絶対良くならない、そこで「ゆっくり歩き」と「早歩き」を交互に行うということにして、脈拍数を上げるようにします。 「早歩き」は「走る」とは違って、足を高く上げずに、片方の足は常に地面に着けて進むということで、より足への負担が少なくなります。 また、スロージョギングが歩幅を狭く、足の親指の付け根からの着地を勧めているのに対して、「早歩き」は、できるだけ大股で、かかとから着するように言っています。これは、やはり「歩く」と「走る」という両者の違いがあるからです。 「歩く」を基本とした場合、足への衝撃を気にする必要がないという前提が生まれ、その前提のもと、大股で、かかと着地すると、下半身の大きい筋肉が使え、すねの筋肉も鍛えられ、転倒防止にもなるという利点があるとされています。 ともかく「インターバル速歩」には、松本市の市民の協力を得た10年間のデータが揃っておりまして、これを実践している人の中からは、ほとんど成人病といえる疾患は発生していないとのことです。あるいは、成人病となっていても進行は止まっているといいます。 それで「インターバル速歩」も、エビデンスがしっかりしていることもあって、世界から注目されている。「スロージョギング」も、間違いなく効果がある。 では、どちらをやるのがいいのか。 これについては、ご自分の生活状況に合わせて決めればいいと思います。 私個人について言えば、田中先生の「スロージョギング」の方が、続けるには適しているかなと思っています。狭いスペースでもできますし、少し時間が空いた時に、会社のオフィスでもできますから。 やる気を起こさせるには そこで問題は、こういった健康法をやればいいのですが、やる気を起こせない人に、どうしたらやる気にさせられるかということです。 それで、帝京大学大学院教授の中尾睦宏先生は、その「やる気」を研究されています。 「わかっちゃいるけど、できない」という人に対して、どうやって「やる気」を起こさせるかをめぐって、ハーバードで研究を進めた先生です。この先生とも私は、連携を取っております。 それで、たとえば富士山に登るとして、いきなり「登りましょう」と勧めても、やる気のない人は「苦しいから嫌だ。装備も揃えなくてはいけないし、面倒なことはしたくない」と、なるでしょう。 そこで、たとえばその人が人気グループのAKB48のファンだったとすると、「AKB48が富士山の頂上で待っていますよ」となれば、「よし行こう」と、なるでしょう。 ただ「あなたは血糖値が高いから運動しなさい、食事制限しなさい」というだけではダメで、何らかの動機付けが必要ということです。このことは、私どもにとっても最大の課題になっています。 ガン克服とクリニック経営 続いて、なぜ私が、ホノルルマラソンを走ろうと思ったか、また、この朝飯会でも何度か「大人の探検学校」についてお話しさせていただいておりますが、そもそもなぜ私が「大人の探検学校」を始めることになったのか。つまりは、なぜ、健康に関わることに執念を持って取り組んでいるのか、このことについて、お話しさせていただきます。 実は、私は、3度ガンにかかっています。 2004年に、無実の罪で逮捕され、まったく身に覚えのない嫌疑でしたから、結局、不起訴となりましたが、その時の22日間に及ぶ取り調べは大変な風圧とストレスでありまして、私はガンになり、わが家にもマスコミが押しかけたために、女房もストレスでガンになってしまいました。 私は食道ガン、女房は原発不明(発生部位が特定できない)の喉の奥のガンで、リンパにも転移していました。 女房の手術は、大変でした。手術をしながら組織を生検にまわして検査して、どこまでガン細胞が広がっているかを調べながら進めるというもので、ガン細胞が見られなくなる相当なところまで取り除くという12時間に及ぶ手術でした。慶應大学の小川郁(かおる)先生(医学部耳鼻咽喉科学教室教授)に執刀していただきましたが、そのような困難のなか、声帯を残すということもしていただき、手術は成功いたしました。 私の食道ガンの方は、常識的には外から切らなくてはならない状況のところを、食道ガンの内視鏡粘膜切除手術では世界的権威の東海大学の幕内博康先生(東海大学医学部付属病院本部長・外科学主任教授)が、内視鏡で取ってくださって、大手術をせずにすみました。 こうして、夫婦とも一命をとりとめることができたわけですが、その先にさらなる困難が待っていました。 逮捕と病気を克服して、それぞれ家に帰ってきたわけですが、それまではいろいろな人が周りに寄ってきていたのが、潮が引くように誰もいなくなりました。 どうやって生活していこうかという困難が待っていたのです。 生命的な死は免れましたが、精神的な死と社会的な死という2つの死に陥ったのでした。 実は、こうした最悪の経験があって、私を健康管理の仕事へと向かわせることとなりました。 こうした騒動のなかにあっても、山中孝市さんという私のことを全面的に信頼し続けてくださった友人がおりまして、この山中さんから、クリニック経営の話を持ちかけられたのです。 「一緒に、どうせなら世界で最高峰の医療を提供するクリニックを、やってみませんか」と。 ガンで自身が苦しんだこともあって、この勧めを受け、会員制クリニックの経営を始めることといたしました。会社名はT&Y株式会社で、T&YのTは竹岡、Yは山中さんのことです。 それで、私どもの会員制クリニックは、開院してちょうど10年が経ちました。 現在、540人の会員がおられます。 看護師1人が50人ほどを担当して、その看護師のもと、年2回の強制的な人間ドックをはじめ、何でも相談にのり、24時間院長が電話対応して、MRIの設備もありますから画像もいつでもすぐ取れるといった、至れり尽くせり万全の体制をとっております。 このように、飛行機にたとえればファーストクラスのトップの医療環境を整えて、今日に至っております。 白澤理論「食事、運動、生きがい」とALCO 問題は、それでも、特に高齢者の健康維持・管理は、大変困難な状況にあるということです。 糖尿病などがそうですが、いかに手を尽くしても、悪化してしまうという現状があるのです。 そうすると、医者とは何なのか、薬とは何なのかという疑問まで湧いてくるのです。 それは、悩ましい問題です。 それで、私自身は、もとよりドクターではありませんから、このことを率直に、クリニックを訪れるドクターに、その都度話題にして訊ねておりました。 そのなかで、これは傾聴に値するなと思ったのが、メタボ担当で来てくださった白澤卓二先生のお考えでした。当時は、順天堂大学大学院教授で、まもなく私どものクリニックにお迎えすることになっておりますが、先生は「これは、クリニック経営の足しにはならないでしょうが、大事なのは、食事と運動と生きがいです。人を健康にするには、それ以外にない。これが私の持論です」と言われました。 いくら医療を尽くしても、どうにもならない限界を痛感しておりましたから、それを聞いて、その通りだと、私は即座に賛同いたしました。 それで、白澤先生の「食事、運動、生きがい」を柱に、健康長寿を目指しましょうということでALCO(アルコ)という組織を立ち上げました。 ALCOとは、老化対策の指導者を養成する組織体という意味の英語、アンチエイジング・リーダー・クリエイティブ・オーガナイゼーションの各単語の頭を取って付けた名前です。 「歩きましょう」「歩こう」にも通じることから、ちょうどいいということで、この名前にいたしました。 狩猟社会の生活をベースに 食事は、食べ方の指導で、特にカロリー制限の仕方に焦点を当てています。具体的には、ビタミン、ミネラルをしっかりとって、あまり炭水化物はとらない。 これは、農耕社会の前にあった狩猟社会の食生活をベースにするということになります。狩猟社会の質と量に食事を制限すると、人の長寿遺伝子が活性化するとの研究があるのです。 運動も同じく、狩猟社会では、走るなどの運動をしなくては食べ物にありつけなかったわけですから、否が応でも人間には、他の動物以上に長く走る持続力が備わっていました。 その人間が運動しなくなれば、当然、体調がおかしくなってしまう。 適度な運動を勧めるのは、そうした理由からです。 生きがいは、それがないと、どうしても閉じこもりがちになって、動かなくなりますから、不健康になってしまいます。 これに関連して『サピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ハラリ著、柴田裕之訳、河出書房新社)という興味深い本が出ています。 なぜ、われわれホモ・サピエンスだけが繁栄したのか。ネアンデルタール人など人類は他にもいたのにという疑問が提示されていて、その答えは、認知革命が起きたからだと言っています。虚構の言語の出現がそこにあったという説です。 また、上野の国立科学博物館で、ホモ・サピエンスの祖先である2万年前のクロマニヨン人が残した洞窟壁画に関する『ラスコー展』(2016年11月1日~2017年2月19日、その後宮城東北歴史博物館、九州国立博物館に巡回)が開かれておりまして、これは是非ご覧になられることをお勧めいたします。 狩猟時代の食が、いかなるものであったか、どんな暮らしをしていたか、具体的にわかるようになっていますし、さらには、幸福とは何か、クオリティ・オブ・ライフを考えさせる内容となっていました。 ALCOの体制 組織の体制をお話ししますと、理事長は、白澤卓二先生で、今は順天堂大学を退官されて白澤抗加齢制御医学研究所の所長となっておられます。 名誉会長として三浦雄一郎さんになっていただいています。これは、白澤先生が、三浦雄一郎さんの主治医となっており、心臓に爆弾を抱えていながらエベレスト登頂をなし遂げさせた健康管理を担当されたということから、象徴的な意味で就いていただいたということです。 副理事長に3人就いていただいていて、1人目は岩波佳江子先生で、前橋温泉クリニックの院長ですが、温泉を活用した健康法を提供してくださっています。 副理事長の2人目は内田弘さんで、ベストアメニティという株式会社の代表取締役ですが、この方は、食事の方面を担当していただいております。 内田さんは、青田買いといって、全国をハーレーの大型バイクでまわって、これはと思った田んぼを見つけると、作物の全部を買う契約をして、その田んぼでの育て方を指導する。こういうことをして、雑穀を全国から直接買い付けるということをしている人です。それで、本当に体にいい食材を提供していただいています。 3人目は、後藤孝洋さんで、大変勢いのある新日本製薬株式会社の代表取締役です。ALCOのスポンサーをしていただいております。 私はといえば、常務理事となっておりますが、事務方として、ALCOの関係者の取りまとめ役を、社会奉仕、ボランティアとしてさせていただいております。 それと、理事として先端医療に取り組んでおられるクリニック真健庵院長の吉村尚美先生、さらに専務理事兼運動担当の講師として三浦豪太さんがおられます。 豪太さんとは、以前からお話しているとおりですが、いろいろご一緒するなかで、「大人の探検学校豪太会」を作って、活動をしております。 「大人の探検学校」というのは、豪太さんの『日経(土曜夕刊)』での連載コラム「大人の探検学校」にちなんで付けた名前です。 今年は、豪太会として、本日参加されている清水英夫さん、月本房子さんと一緒に9名で、ヒマラヤの標高3880mのホテル・エベレスト・ビューまで行ってまいりました。素晴らしい自然のなかに身を置くと、5歳から10歳は若返った気分になります。 あと、ALCOには、理事兼講師に中尾和子先生がおられますが、小さなボールを使ったエクササイズを提唱する先生です。腰痛をはじめ、体の痛みを取ることが、これでできます。 以上の陣容で、ALCOは、夏と冬に年2回ほど全国で実施する2泊3日のキャンプを中心に活動しています。 薬にまつわる問題 最後に、私が残りの人生のライフワークの1つにしようとも思っていることで、清水英夫さんも後日、詳しくここで発表される予定と聞いておりますが、データヘルス計画について、お話します。 後期高齢者は年収によって変わりますが、通常1割の本人負担、中小企業の健康保険の協会健保でも、組合健保という大企業の健康保険でも、あるいは国民健康保険でも、本人は3割負担で、残りは会社、自治体、それに国が負担することになっています。 清水英夫さんは、企業の組合健保の専務理事を長く務めておられましたから、この健康保険の仕組みはよくご存知ですが、医療費が、うなぎのぼりに伸びているという現状があります。内訳は、治療費と薬代ですが、治療費はもちろんですが、薬の値段もバカになりません。 白澤先生によれば、血圧が140から150という程度では正常の範囲内とされるのに、医療機関は、それで稼ぎたいために、それよりも数値を厳しく設定しがちです。数値を厳しくした方が、薬を多くの人に出せるのです。 血糖値についても同様で、130でも問題ないのに、医者は100以下に抑えるように指導します。 薬を飲んで、数値が下がれば、それならまだいいのですが、私の経験では、ずっと飲み続けても数値は下がることは一切ありません。薬は、二重に問題となっているのです。 効かない薬代が払われ続けているという、恐ろしい状態がずっと続いています。 ところで、私は、ハワイに健康道場というのがあって、そこに年に1回ほど行っています。 そこに行くと、薬を飲まないのに、日中、80くらいまで血糖値は下がります。 ここでは、ハワイの地元の果物と野菜だけで、そのほかは、ほとんど口にすることは許されません。さらに、砂に潜って汗をかいて、デトックスをします。 つまりは、ほとんど薬は関係なく、その人の生活習慣がデータに現れるというのが、私の実感です。 レセプトを活用する呉市 通常、医者にかかると、診療報酬請求書、レセプトというのがあって、どういう病気で来られて、どういう治療を施し、どういう薬を出したか。よって点数はいくらで、患者本人から3割いただいたから、残りの7割をくださいということになるのですが、このレセプトというものは、これまでほとんど報酬計算の事務処理のみで、健康管理などに活用されることなく終わっていました。 これに気づいたのが、広島県の呉市です。データホライゾンという私の友人が社長をしている会社が広島市にありまして、20年ほどをかけて、呉市のレセプトを精査することで、その人がどういう病気になって、どういう経過を経て、どういう状態にあるかを解析できるようにしました。 ステージ特定で的確な指導が可能に たとえば糖尿病の合併症の腎臓疾患である糖尿病性腎症病の重症化をピラミッド型に表すと、底辺が腎症前期(第1期)から早期腎症期(第2期)で、その上が顕性腎症期(第3期)、さらに上が腎不全期(第4期)、頂点に透析療法期(第5期)となります。 レセプトの解析技術によって、その人が一体どのステージにあるかが見えてくるようになります。それまでも、透析に行かないように、カロリー制限や運動を勧めてはいましたが、相手がどのステージにいるのかを特定できないまま、漠然とした指導しかされてきませんでした。 医者にかかっていながら、ほとんどがどんどん悪化して透析へと進むのは、どうしてか。 一つには、専門医が不足で、的確な治療ができていないからということがいえますが、それを補うためにもレセプトの解析が役に立つことが、わかってきました。 呉市の場合、レセプトの解析によって、4期の人を特定できて、主治医のほか医師会の了解も得て、その人たちに向かって食事指導と運動指導を個人的にするようにしました。 これには、広島大学大学院(医歯薬保健学研究院)の成人看護開発学教授の森山美知子先生が、教え子の看護師を総動員して指導にあたりました。 医者と患者の関係では、なかなかものは言えません。大病院などでは、1時間2時間と待たされて、診てもらえるのは5分、良くて10分ですから、なかなか意思の疎通はできません。 それを、担当看護師をつけて、週に1、2度電話をして「どうですか」と確かめ、月に2、3回は「何を食べていますか。運動していますか」と、面談をして、「一緒に歩きませんか」と、誘う。こうした丁寧なフォローをしていきました。 そうすると、捕捉した人が、3年間、1人も透析にならずにすみました。 大事なことは、ターゲットを絞り込めるかどうかです。 今は、絞り込めずにいますから、一番多くいる底辺にたくさんのお金を使っています。 少し血糖値の数字が悪くなった人に、総花的にお金を使うのではなく、放っておくと透析にいきかねない人に絞って、食事や運動指導をする方が、よっぽど効率的なのです。 透析には、1人あたり年間500万円かかっています。そのうち全部が公費です。個人負担は0円です。 それを、そうならないようにすることが、医療費の削減となりますし、何よりも、クオリティ・オブ・ライフの維持になります。透析に取られる時間は、その人の生活を大きく制限しますから。家族も巻き込んで、大変な負担を強いることになりますから。 レセプトの点検によるデータ活用は、国や自治体の医療費負担を軽くする、本人の生活の質を高める、家族を安心させるの三方良しです。 そこで、もっと全国的に展開しようと、データホライゾンでは「ヘルスケアやまと」と名付けたサービスを提供しておりまして、私も、ボランティアですが、この活動をしております。 2010年のデータで計算すると、透析の人が100人いると、年間医療費は5億円となります。透析にならないための指導の場合、だいたい1人あたり年5万円ですから、全部で15000人としても7億5千万円ですみます。 どちらがいいかを考えると、利益を受ける人数を考えれば、透析者を減らす方向を目指す方が良いにきまっています。 また、こうしてみると、いかに透析に費用がかかっているか、あらためてわかりますし、これをできるだけ無くすことが、1つの課題であるということが明らかになります。 ジェネリック薬品への取り組み もう1つは、ジェネリックの医薬品に変えるということです。 これについては、呉市では、個人に対して通知ができるようになっています。 「あなたは、こういった薬を飲んで、全部で1万円払っていますよ。これを同じ効果のジェネリックにしたら5千円ですみますよ」といった通知を、呉市では個人宛に出しました。 これを、何度も全員に出しました。切手代と印刷代ですみますから。 その結果、現在、9割の人がジェネリックに代えています。平成22年度と23年度(2010年度と2011年度)の実績より計算すると、市全体では、被保険者数56,000人で、なんと年1億2400万円の削減効果となっています。 すると、削減されたお金を原資に、糖尿病重症化予防などにまわせます。 そこから、新しい雇用も生まれてきます。 高齢者に簡単な運動、スロージョギングなどを教えるのに、その指導をする人にアルバイト料を出して、あるいは元気な高齢者が弱っている高齢者を担当してもらうとか、休眠看護師にたとえば10人の指導を頼むとか、そういったことができるようになります。 このように、ジェネリックに切り替えたお金が、前向きな形で生きるといったことが現に起こっています。 生活保護者への指導 それから、これはなかなか触れにくい事柄ですが、生活保護者の問題について、言及しておきます。 生活保護の人の医療費は、全額公費負担です。 そのために、お医者さんたちは、この人たちをお客さんのように扱っています。 生活保護の人を、1人つかまえると、大変な利益が期待できるのです。 全額公費から、間違いなく支払われるから、それをいいことに、法外ともいえる薬と治療を施して、そのまま請求する。 これが現状ですが、誰も医師会や製薬会社が怖くて「おかしい」と、声に出さない。 そんな自治体のなかで、福岡市の高島宗一郎市長と私は友人でありまして、新日本製薬の後藤さんが市長の後援会長でもあり、この問題を取り上げて、福岡市の生活保護者のデータヘルスの資料を活用することに決めました。現在、過去3年間にさかのぼって集めています。 福岡市の場合、3万の生活保護世帯があって、500億円ほどの医療費を年間使っています。 これは、普通の世帯の1世帯あたりの6から7倍、医療費がかかっていることになります。その生活保護世帯のなかで、寝たきりになっている人は少ないというのに。 もちろん致し方ない事情で生活保護となった人もいますが、冷静に見て、半分以上は、自己管理能力がなくてそうなったものと見受けられます。 ですから、少なくともそういった自己管理能力に問題がある人には、生活指導をする。 運動や食事指導をする。あるいは料理教室などもする。 薬については特に問題で、ほとんど高いものを使っていて、ジェネリックにしていませんから、それもジェネリックに代えていくことを目指します。 ともかく、福岡市では市長が賛同して、市当局の了解のもと、予算もつけて、現在、データを解析しています。 このための予算については、国も必要なだけ出すとなっています。 しかし、他の自治体は、どこも手を上げない。医師会の反発が怖いからです。 福岡市の高島市長は、この前の選挙のとき、医師会の推薦を断りました。「それでは困る」と、医師会の方から推薦状を持ってきたくらいです。ですから、医師会の反発も怖くない。率先して市長主導のもと、生活保護世帯の医療費の解析を始めました。おそらく驚くべき結果が出ます。 私は、公明党の関係者で、党としては、福祉の党ですから、生活保護に手を入れるのはどうかという意見もあるのですが、丁寧に説明して、今は、私個人の活動としてやっています。 いずれにしても、これは本人のためになります。 将来、寝たきりにならずにすむ。健康になって、次の仕事を目指せるのです。クオリティ・オブ・ライフに寄与できるのです。 終末医療の問題 それから、取り組まなくてはならない最大の課題は、終末医療です。 今、日本の医療費の8割近くが、施しても回復の見込みがない人に使われています。 今の日本の最高水準の医療が、集中治療室に当てられています。 救急車で運ばれたら、そこでまず治療されるわけですが、その救急車で運ばれる人のうち、もう回復を見込めない高齢者も同じように集中治療室に運ばれて、最高水準の治療が施されます。 また、自力で食べることができず、点滴や管を通して水分や栄養を直接胃に送る胃瘻によって生かされている。 医学の見地から見て回復の見込みがあるなら別ですが、その望みはなくても、医療行為が続けられている。 私は、こういった、まったく効果のない医療行為は、原則としてやめるべきではないかと思っています。 ヨーロッパでは、自力で食べられないとなったら、もう放っておかれます。 その人は、だいたい2週間で亡くなるといいます。日本のような延命治療は、やりません。 アメリカもほとんど自己負担で、日本のようなことをしていたら、皆、破産しますから、やはりしません。 亡くなっていくだけの人たちに、医療予算の8割が使われているという現実は、先ほど触れました広島大学の森山先生がデータで捕捉されています。 それで、私は働きかけて、データヘルス推進議員連盟を国会に作っていただきました。 会長には、元厚生労働大臣の田村憲久先生になっていただき、心ある議員が立ち上がってきています。 これには、福岡市の3万の生活保護世帯の3年間の医療費の使われ方データを、指導によって寝たきりになる人が減り、透析にいく人が減り、医療費が削減できたという、改善成果を添えてぶつけたいと思っています。 これは、大変な衝撃になると思っています。 そして、全国に展開していけたらと思っています。 ケトン体で脳を再生 最近の白澤先生の本(『仕事で成功したければ「脳にいい油」を摂りなさい』PHP研究所)に、脳がハイブリット構造であるということがわかってきたとあります。 先ほども申し上げましたが、現在の農耕社会に入る前、狩猟社会を人類は生きていたわけです。 それで、狩猟時代というのは、小麦や米に代表される炭水化物は豊富に取れませんから、その時代は、ほとんどケトン体で脳を動かしていたというのです。ケトン体というのは、アセト酢酸とβ-ヒドロキシ酪酸を総称する名前で、肝臓で作られる物質です。 それが、農耕生活に入ると、炭水化物を元に作られるブドウ糖が脳を動かすようになります。 ところで、認知症の1つであるアルツハイマー病を起こす原因の1つは、このブドウ糖回路が切れることによるという最近の研究があります。 そこで注目されるのが、脳はもともとケトン体で動いていたという事実で、その機能は、未だ失くなっておらず、ブドウ糖の回路が切れてもケトン体の回路に切り替わるハイブリット構造であることがわかってきました。 したがって、ケトン体の回路を復活させればいいのですが、そのためには、体に取り込むとケトン体となる食材を摂ることだといわれています。 その成分は、ある種の油や木の実とかに含まれていて、具体的にはココナッツオイル、エゴマオイルなどがその代表ですが、それらを積極的に摂取すると同時に、炭水化物の摂取を抑えるという方法が提唱されています。 実際に、こうすることによって、アルツハイマー病に改善が見られるそうです。治らないといわれてきた認知症のアルツハイマー病が、改善できるという話になってきたのです。 ともかく、認知症予防のためにも、食事と運動と生きがいです。それを前提に、食事の中心に、ケトン体を置くべきであるというのが、白澤先生の理論です。 長寿社会となった今、100歳を、健康な自分の足と頭で迎えましょうというのが、今後の重要テーマとなってまいります。 以上、なぜ私がホノルルマラソンを歩くことになったのか、医療機関のなかで感じていることをALCO、アンチエイジング・リーダー養成機構のなかで展開していこうとしていること、大人の探検学校豪太会を組織してワクワクドキドキする大人の探検をしようとしていること等々、お話ししました。 すべては、健康長寿の人生をすべての人にという願いから出たものです。 本日は、お聞きいただきまして、ありがとうございました。 《Q&A》 【質問1】 最近の事件で、障がい者を「生きていても仕方がない」として殺してしまう事件(2016年7月26日未明、神奈川県相模原市の障がい者施設の元職員が入所者19人を刺殺、26人に重軽傷を負わせた)がありました。これと、先ほどの終末医療の話とは、ともすると重なり合うように思います。生かす人と、そうでない人を分けるという意味で、どこで線を引くかという問題は、非常に注意を要するのではないでしょうか。 〈竹岡〉それは、どこかで決めないといけないと思います。医療行為をすれば、助かるというのならするべきです。それが望めないならば、延命行為はしないということです。 こうなったらもう積極的な医療行為はしないというガイドラインのようなものを決めて残しておかなくてはなりません。意識も何もなく、家族が年金が欲しいがために胃瘻と点滴で延命処置をしているという実態は、やはりおかしいと思います。全医療費の8割から9割がそこに使われているという現実があって、白澤先生も「1割が9割を喰っている」と、問題視されていました。 【質問2】 私の母は、98歳の誕生日を12月4日に迎えました。皆で祝おうというその日の朝、急に心臓が苦しくなって救急車で運ばれました。入院・治療の甲斐あって、まもなく戻ってこられる見込みとなっていますが、その母が、いつもは「もう生きていてもしょうがない」と言っていたのに、苦しくなってみると「やっぱり生きたい」と、なりました。他人事であるうちは、延命治療はしないというのに同意でも、自分の身内のこととなった場合、情緒的な問題があって、言われることは、その通りで、大賛成ですが、一概に線引きするのは難しいとも思います。 それと、最終的に問題となってくるのは、医者が自らの生活を成り立たせるために儲けようと過剰な医療と薬を施しているという実態であって、改善するためには、医者の側をどうするかではないでしょうか。 〈竹岡〉その通りです、これは最大の岩盤です。 私の友人で秋野公造という長崎大学を出た医者で、参議院議員がおりますが、彼が提唱しているのが「予防に金を使え」ということです。今までは、病気の治療が医者の使命であるという考えから、予防には、ほとんど金が入るようになっていません。それを、病気にならないための指導をしたなら、お金を払うように変える。それを、秋野公造が推進しています。 具体的にやったことをあげると、胃ガンの主原因とされるピロリ菌の検査に点数をつけて、保険を適用させました。 さらに、今年の診療報酬改訂で、医者が運動しなさいと指導したことに、100点をつけさせました。100点というのは1000円です。 それと、先ほどお話ししたスロージョギングの田中先生ですが、その学校では健康運動指導士を養成しているのですが、今は、その資格があっても、給料にほとんど反映されていません。これからは、そういう資格を持った人の給料は上げて、運動を指導するプロを増やすということが必要です。 こうやって、意味のあることに報酬が出るように、予算を変えていくということを求めていかなくてはなりません。 【質問3】 関連して、人間ドックですが、今は税金の控除を受けられません。これは、どうでしょうか。税制面でも変えていくことが必要だと思いますが。 〈竹岡〉それも、今やっています。一所懸命、運動して健康を保つようにしている人が、一番、税金を払っている。そのような人に還元されるように、予算も税金も変えていかなくてはなりません。 |