がん最前線 賢く選ぶ最新治療法 第2479回 丸の内朝飯会 平成28年12月15日午前7:30~8:45
※本稿は、当日の内容をベースに一部加筆訂正しました。 全世界で凄まじい勢いで、がんに対する治療法の開発が進んでおります。 今日は、私自身の体験を踏まえて「がん最前線 賢く選ぶ最新治療法」というタイトルでお話しさせていただきます。(文中の図像・資料は読売新聞社・日本経済新聞社のデータを使用しました。) 食道がんと内視鏡手術体験 今は、2人に1人ががんになる時代だといわれています。 私は、2004年のことでしたが、まったくいわれのない嫌疑で当局に逮捕されまして、22日間拘束され検察に取り調べられるということになりました。 その時は、新聞、テレビでも報道され、私は大変なストレスを受けました。留守宅にも連日マスコミが押しかけ、女房にも非常なストレスをもたらすことになりました。 約1年間にわたってストレスを受け続けた結果、私は、がんになりました。 食道がんで、かなりステージが進んだ状態での発見でした。2005年のことです。 幸い、内視鏡でがんを取り除くことができました。 東海大学の教授で、内視鏡による粘膜切除手術では世界的権威といわれた幕内博康先生(東海大学医学部付属病院本部長・外科学主任教授)が、施術してくださったのです。 「あなたはツイています」と、助手として立ち会った女医さんに言われました。「この手術は、幕内先生のいわば芸術品です。普通なら開腹手術をしなければならないところでした。幕内先生だからできたのですよ」と。 この施術は、後でまたお話ししますが、ESD、内視鏡的粘膜下層剥離術といって、内視鏡の先に付けられた電気メスを使って患部を焼き取るというもので、当時、盛んに研究が行われて、日に日に進歩をしていた最新施術法でした。 それまでは、お腹を裂いて心臓を上に押しのけて、場合によっては背中まで裂く大手術になるものでした。それを内視鏡を使ってがんを焼き切るということで、侵襲も少なく、早く現場復帰ができて、私は生き延びることができました。 現代医療現場の落とし穴 また、ガン細胞を摘出する手術に立ち会ったことがあり、その体験からわかったことは、医療現場では、がん手術の場合、がん細胞だけを丁寧に取り除くのではなく、がんとその周囲まで根こそぎ取り除くことをしがちであるということです。 それは、生存率を高めることが最優先であり、比較的早く手術を終えられることから症例が増やせるからです。 しかし、そのことによって、例えば咽頭がんの場合、声帯まで切除して、声が出せなくなって、生活に必要な機能を失わせるといったことになりかねません。 それがわかっていながら、生存率と症例数を優先する観点から、他の観点を切り捨てる。 現代の医療現場には、そんな落とし穴があるなと、思っております。 そのようなことを回避するためには、現状では、なるべく早期に、しかもその分野に適切な医師に任せることが、生き延びる決め手だと思います。(医師との信頼関係・人間関係もです。) 最高の会員制クリニックの立ち上げ こうした私の様子を見ていた友人がおりまして、山中孝市さんというのですが、「あなたの体験を生かして、クリニックをやろうよ。それも、会員制のクリニックをやろう」と勧めてくれました。 山中さんは「私もわがままですから、どうせなら、どんなわがままでも聞く最高の会員制クリニックにしよう」と話し合いまして、1年の準備期間を経て、2006年、メディカル・サーヴァント・クラブを立ち上げました。 ちょうど港区の慈恵医大(東京慈恵会医科大学)の前にある森ビルの4階に、慈恵医大が作った300坪のVIP対応用のクリニックがあって、それが、経費がかかり過ぎるということで売りに出ておりました。 それを、居抜きで、しかも慈恵医大との内線付き、サービス付きで買い取りました。 それは、クリントエグゼという名前のクリニックですが、その名前と、慈恵の系列であることを示す穆心(ぼくしん)会という名前を残して、医療法人社団穆心会クリントエグゼ・クリニックの名前を残すかたちで経営を始めました。 穆心会の名前を残したのは、会の名は、海軍出身で慈恵医大創始者の高木兼寛(たかき かねひろ)先生の号、穆園から付けられた名で、穆の字が付いていれば「慈恵の関係だな」と、関係筋にすぐわかってもらえるからです。 会員にノーと言わない クリニックは、クローズの会員制にして、メディカル・サーヴァント・クラブの会員しか診ないということで始めました 私はCEOの会長で、会の名前のサーヴァントとは執事、召使いということですから、会員に尽くしきるという精神で、医療の面については「どんなわがままでも要求してください。ノーと言いません」というコンセプトを貫きました。 院長は、中田秀二先生という慈恵医大出身、ハーバードでがんの研究やヘルスケアの研究をして経験を積んだ新進気鋭の医師が着いて、今も務めていただいておりますが、彼を中心に、慈恵医大との連携が特徴となっています。 それが強みとなっていて、何かあったときは、都内であれば、すぐに慈恵の救急に連携が取られます。慈恵では、会員カードを見せれば、素晴らしい対応をしてくれます。 私の場合ですが、仕事のパートナーがある時、沖縄から送ってこられたマンゴーを切っていたら、指を切ってしまいまして、血が止まらない状態となりました。 それで院長に連絡を取ったら、「すぐに慈恵の救急に行け」となって、行きましたら、救急の師長は待っている、教授が2人で指の切ったところを治療してくださるわで、驚くほどの対応をしていただきました。 これは一例ですが、緊急危機対応が効くということで、口コミで評判が広がってまいりました。 クリニックでは、他の会員と顔を合わせないで済むようになっていて、10人のスタッフが、あなたのためだけに働いていますという体制を敷いています。 実は昨日、私は人間ドックを受けましたが、同時には4組しか受けておらず、その4組に対して13人ほどのスタッフが当たっていました。 ともかく、こういった「あなただけを」という精神とそれを実際に行う体制が世間に受け入れられ、現在、めいっぱいの540人の会員数となりましたので、これ以上、新規入会は受けないことにしています。 普通のクリニックなら、来院されない限り対応しませんが、私どもの場合、会員一人ひとりに担当看護師が付いて、クリニックの側から必ず月に1回、「どうですか」と会員に積極的に働きかける体制をとっています。 設備についても、MRIを備えていて常時使えるとか、内視鏡検査室が2部屋あって、麻酔も使って、体を休めるような感じで検査を受けられるといった具合に、充実しています。 しかし、なんといってもドックの際の一番の強みは、ドクターと看護師の質の高いことです。 ベストドクターを選定 また、セカンドオピニオン・サービスにも力を入れていて、ベストドクターを選べるようにしています。 それぞれの症状に対して、どういう治療法が良いのか、それを見極めて、どこの病院がいいかではなく、ピンポイントでベストのドクターを選ぶというサービスで、会員のみでなく、会員の企業なり団体の従業員や構成員にも対応します。 構成員の相談にも応じるというのは、それぞれの構成員への福利厚生の観点からであり、本人のみでは無理ですが、構成員まで組み込めば、それによって、各企業・団体の損金計上の対象になるからでもあります。 充実のアテンドサービス 今は、大学病院など、1時間、2時間と待たされて、その挙句、診療は5分間というのが当たり前の時代です。 それで、わがクリニックでは、その場合、朝一番にアテンダーが診療の順番カードを取りに行きます。 出てきたカードに指定された時間を診療希望の会員に知らせ、会員は、その時間に病院に出向けば、待ち時間なしで診察が受けられるようになるというわけです。 このサービスは、非常に好評です。 また、慈恵医大のいわば旬の先生と契約しておりまして、大学の研究室から大学病院に出向くよりもクリニックに来る方が近いという事情もあって、30分で3万円、60分なら6万円と、有料ですが、必要ならクリニックに来ていただいて、ゆっくり教授クラスの先生と、一対一で診療や相談が受けられるというサービスもしています。 このように、アテンドサービスが充実しています。 24時間の危機管理体制 さらに、1日24時間、危機管理の体制を敷いており、院長もしくは副院長クラスが、必ず携帯電話に出るようになっています。 会員自身だけでなく、その子供でも、家族でも、誰かに何かが起こったとき、会員はいつでも相談の電話ができる。それだけで安心ですし、8割から9割は、電話での応対で、問題が収まります。 以上、看護師の体制がいいこと、ベストドクターの選定、それと、なんといっても24時間、全世界どこからでもコールセンターが緊急対応し、院長が携帯対応する、この3つの特徴で評判を得て、会員数は現在、満杯になりました。どなたかがお辞めにならない限り、入会はできない状況となっています。 世界を視野に、今後の展望 以上、お話ししてまいりましたように、こうして会員制クリニックは軌道に乗りましたので、今後、新たな展開を考えております。 ちょうどIR法案が可決されました。海外からいわゆる富裕層が多数お見えになることが見込まれます。それら世界の富裕層へ、ガン先進国、成人病先進国である日本の経験を生かした、なんらかのヘルスケアをお届けできないかと、模索しているところです。 IR法案の審議の過程では、カジノが随分取り上げられましたが、カジノの面積は敷地の3パーセントに過ぎません。それ以外の敷地に、付帯価値の付いた病院・クリニック、あるいは灸針、マッサージなど、ありとあらゆる療法を備えた、心身ともにリラックスさせる究極の癒しの施設を開業できればと夢見ています。 日本の現状 さて、今日の本題に入ります。 日本人の2人に1人ががんになって、3人に1人ががんで死ぬ、これが通説にもなっています。 これほど、がんが身近になったということは、別の側面からいえば、不治の病から、がんと共存する時代に入ってきたということにもなるといわれます。 さらに2度のがん体験 クリニックを始めるに至った私のがん体験をお話ししましたが、実は私は、それ以外にも2回かかっており、合計3回がんになりました。 最初が食道がん、続いて、検診データからわかったのですが、前立腺がんになりました。 組織検査をしたら、「100パーセントがんです」と、診断されました。 これはこれで、完治しました。 その後、半年ほど前になりますが、首の横が、かゆくてかゆくてしょうがなくなりました。 最初は、ゴルフをやっているから日焼けのせいと思っていたのですが、あまりにもかゆいので、皮膚科の専門ドクターに診てもらいました。 この皮膚科のドクターというのは、以前、ご婦人方から要望があって、クリニックに美容部門も作っておりまして、エビデンスのある美容科でないといけないとのことで、そこに皮膚科のドクターも常駐しておりまして、この美容科は、大変好評です。 そのドクターに診てもらったのですが、そのドクターは、たまたま皮膚がんの専門医でした。 見るなり、「これは、私の教授に診てもらった方がいい」と。 不可解ながら、教授のところに行くと、即座に「これは、がんです」と、診断されました。 さらに「検査をして、はっきりしてから取るでもいいけれど、すぐに処置した方がいい」とのことで、すぐに手術をして取ってもらいました。 診てもらって1泊2日で切り取ったのですが、執刀は教授ではなく、教授は指導しながら、若い人に切らせました。 手術は全身麻酔ではなかったので、話している声が全部聞こえます。 「なんだ、その縫い方は」といった、教授の叱る声まで聞こえて、気が気でありませんでした。 後で、たずねると、「いや、失敗といったって、命に別状ないから。ちょっとかたちが悪くなるだけだから」と、笑っておられる。 「かたちが悪くなるということでも、当事者にとっては大問題なのに」とも思いましたが、まあ、これが病院というところです。 ともかく、こうして合計3度、がんを体験したわけです。 罹患率と死因のがん別順位 それで、がんの罹患率です。これは、国立がん研究センターの統計で、新たにがんと診断される人の割合ですが、割合の多い順からいうと、男性は胃がん、肺がん、大腸がん、前立腺がんの順です。私の場合は、その1番と4番を体験したということです。 女性は、乳がん、大腸がん、胃がん、肺がん、の順です。 死因では、男女とも肺がんがトップで、次いで大腸がん、胃がん、すい臓がん、肝臓がんという順です。 がん別生存率 3年生存率では、すい臓がんが1割ちょっとしかないのですが、発見される数が多くないので、発見の数の多い肺がんが死因別のトップで、大腸がん、胃がんが、すい臓がんの上になっています。 しかし、病気にかかって厳しいのは、すい臓がん、肝臓がんです。 死亡率の年齢別変化を見ると、やはり、およそ60代から増加し、高齢になるほど、増加していきます。ただし、男の方が、圧倒的にがんになって死ぬ率が高くなっています。 ちょうど、昨日の日経新聞(2018年9月12日、38面)に、国立がん研究センターの発表した、全国のがん診療連携拠点病院のデータをまとめた、診断後、がんの3年生存率の2011年の集計が、記事になっていました(国立がん研究センター がん情報サービス〔ganjoho.jp〕がん診療連携拠点病院等院内がん登録生存率集計 参照)。 この3年生存率は、私の知る限り、これまで5年と10年の生存率は出ていましたが、今回、初めて出された数字で、記事によれば、全体で71.3%となっています。 部位別では、良くないのは、やはりすい臓がんで、3年で15.1%、5年で10%となっていて、5年経つと、すい臓がんにかかると、10人に1人しか5年後には生き残れないという非常に厳しい現実が見て取れます。 これは、すい臓がんは、発見しにくいということに原因があります。発見しにくいので、発見したときには手遅れ状態となっている場合が多いことから、この生存率の低さとなっています。 対して、前立腺がんの場合は、ほとんど100%近く、3年後も生存できています。 あと、乳がん、子宮頸がんも、生存率は高くなっています。 厳しいのは、すい臓がんのほか、肝臓がん、食道がん、肺がんは、3年で、ほとんど5割しか生き残れないということになっています。 これらのがんになった場合、見つかったら、それなりに覚悟して臨まなくてはならないということです。 がん患者全体では、5年の生存率は、65.8%で、08年の単独集計が約65%となっているので、10年前からほぼ変わっていないという現状です。 以上の数字は、事故等で亡くなった人は入っていません。純粋に、がんが原因で亡くなった人の数で計算されたものです。 早期がんの治療法 大事なのは、なるべく早く発見することです。 その上で、治療法の選択です。 早期に見つけて、自分のがんに最善の治療法を捜し出せるかが重要となります。 治療法ということでは、体への負担の少ない治療法であることが、最善の治療法につながります。 そこで、治療法ということですが、自身のがん体験と、私は医者ではありませんが、医者に話しづらいことも、私には話せるということがあって、相談を受けることも多いものですから、自分なりの経験から、一定の見解を持っております。 内視鏡手術 まず、内視鏡を使った治療は、それが可能であれば、非常に有効な方法だといえます。 これは、私の食道がんでやっていただいた方法です。 胃がんも、早期なら、内視鏡で取れます。 大腸がんも肛門から入れた内視鏡で部位が取れます。 内視鏡の先に付けた電気メスを使って、がん細胞を剥離させるという方法です。 このやり方が精度を増しておりまして、侵襲性が非常に少なくて済み、生存率も高くなっているので、私も含め非常に多くの方が助かっておりますから、この内視鏡による治療はお勧めです。 腹腔鏡手術 関連して、最近、世に出てきたのに、腹腔鏡手術があります。 従来は、お腹を割いてがんを取り出していましたが、これは、細いアームを4、5本入れただけで、体内を見ることができて手術できるので、傷が少なくて済むというものです。 ただしこれは、群馬大学病院でしたか、2010年から2014年に、一人の医者がこの手術をやって、8人の命を失うということがありましたが、失敗すると大変なことになります。 手術にあたって、失敗の場合もあるという同意書を取っていますから、この場合でも医師の責任を問うのは難しいので、本人はのうのうとしているようですが、はっきり言って、これはミスですし、とんでもない事件だと思います。 こういったニュースになった極端な悪い例もありますが、これで助かった命がたくさんあるわけで、腹腔鏡手術もまた有効な術式であるということで研究が進められており、お腹だけでなく、胸の手術もこれでできるようになっています。 ロボット支援手術 それから、前立腺がんや腎臓がんには、ロボット支援手術があります。 お腹に穴を開けて人間の手で操作していたのを、遠隔操作でやるというものです。 拡大した3D映像を見ながらロボットを操作して、肉眼で見えにくかったり、届きにくいところにある部位も手術できます。 これには、手の震えの自動修正装置も付いています。頭がいいということで、このロボットには天才ダヴィンチの名前などが付けられています。 これまでは、保険が使えるのは、前立腺がんと腎臓がんでしたが、これからはもっと広範囲にロボット支援手術は適用されるようになります。 小線源埋め込み手術 次に、小線源埋め込み手術です。 私の場合、前立腺がんがわかったとき、通常のマーカーの数字は1以下のところ、12ぐらいまで上がっていました。 その数字がわかって、すぐに慈恵で組織検査をしました。 肛門の横から針を刺して、組織を取って検査に出すと、100%がんだと診断されました。 その段階で、慈恵のがんの専門の教授と話をしました その教授の言うのには「私は切るのが専門です。全部切り取ってしまえば大丈夫です」とのことでした。 実は、前立腺がんには、5つの選択肢があります。 1つは、教授お勧めの、切ること。完全に切ることができれば、完治でき、がんの心配は無くなります。しかし、一方で、大事な機能が失われる危険性があります。 2つ目は、照らす。放射線を照らしてがんを弱めることです。これは、周りに悪影響があります。そこだけとは、なかなか行きません。最近は、陽子線とか重粒子線とか、ピンポイントで照射できるものができてきましたが、通常は、そこだけとはいかないで、周囲まで照らしてしまって、男性機能の低下とか膀胱や尿道に影響を与えて頻尿になるといった弊害が出ることがあります。しかし、切るよりはマシともいえます。 3つ目は、薬です。抗がん剤で治すということです。この場合、最近、研究開発されてはおりますが、そこだけに効くというのが、なかなか無いという難点があります。 頭がハゲるとか、体がだるくなるとか、かなりの副作用が出ます。 4つ目が、小線源埋め込み手術です。 これは、アメリカで開発されたもので、ごく小さなチタンの容器にごく少量の線源を閉じ込めて、約100カ所、前立腺のなかに埋め込むというものです。 そうすると、その周りにだけしか影響を与えません。 私の場合は、これを採用して、がんと思われる部位に50カ所、さらにその周りに50カ所で、合計100カ所にチタンの小線源を埋め込むという手術をいたしました。 最初は保険がきかない手術でしたが、私のときには、保険がきくようになっていました。 これは素晴らしいものでした。 ほとんど術後の悪影響は出ませんでした。約2年経った今、マーカーの数値は、2以下、1.5くらいまで下がっています。その下がり方は、緩やかでしたが、確実に下がっていきました。 ともかく、こんな技術もあると知っておくことが大事です 慈恵の三木健太先生が、これの権威で、その先生とお話しするなかで、これを選びました。 何もしないという選択 最後、5つ目は、経過観察です。何もしないという選択です。 前立腺がんの場合など、3年生存率が99パーセントですから、放っておいても大丈夫ともいえます。 例えば、現在の年齢が65で、80まで生きればいいということなら、7、8割は、そのままいけるといえます。 ただし、転移すると大変です。 脊髄に転移すると、痛くて痛くて仕方なくなります。そうなったらもうおしまいです。 まとめますと、前立腺がんの場合、選択肢は5つあって、そのなかで、お勧めはロボット支援手術と小線源埋め込み手術です。 放射線治療のいろいろ 放射線治療でも、これは脳の場合ですが、ガンマナイフという、201個のガンマー線(X線よりもさらに波長の短い電磁波)を脳の局所に一点照射して、がんをやっつけるというものがあります。 また、サイバーナイフというのがあります。 これは、ロボットアームの先端から照射するというもので、いろいろなところから、いろんな角度で照射することで、効果を上げるというものです。 それと、生きている人間は呼吸していますから、臓器が呼吸によって変形します。それで生ずる目標のズレを自動修正するシンクロニーという装置が開発されていまして、サイバーナイフの精度が上がっています。 それから、IMRT、強度変調放射線治療という最新のものがあります。 360度回転できる台に人を載せて、照射も360度からできるようにして、例えば横から当てるときは弱く、上からは強くといったふうに、照射量を変えて当てて、線量を変調できるようして、臓器になるべく影響を与えないようにできるまでになっています。 陽子線治療と重粒子線治療 続いて、陽子線、重粒子線です。 陽子線というのは、最も軽い元素である水素の原子核を加速して、ピンポイントで当てるというもので、小児がんにも使えると、注目を集めています。 ただ、これは軽いので、1週間とか2週間とか、連続してかからなければなりませんが、優れた治療法の1つです。 この陽子線治療ができるのは、現時点で、日本で16カ所ほどしかありません。 私どもは、そのうちの1カ所、鹿児島の指宿にあるメディポリス国際陽子線治療センターを使って、隣接のベイヒルズというホテルに2週間ほどの宿泊をしながら、ゆっくりと温泉にもつかり、陽子線治療をするというシステムを計画しています。 重粒子線治療の場合は、神奈川県立がんセンターなど、全国5カ所ほどで行われていますが、逆にこちらは、ものすごく重い粒子(炭素イオン線)を当てるもので。1回で終わります。何回も通わなくていいという利点があります。 陽子線と重粒子線、どちらを選ぶかは、その人の症状や生活状況などによります。 分子標的薬 最近の話題は、進行がんと薬物療法です。 代表的治療法である、切る、照らす、飲むの3つのうち、飲むという治療法です。 薬物療法は、非常に進歩してきましたが、そのなかで、分子標的薬についてお話しします。 これは、分子レベルに作用する薬で、ある特定の分子を標的にして機能を制御するというものです。 それがあるために病気を発症させる分子レベルの物質を特定して、その分子を標的にして攻撃するというのが分子標的薬です。 有名な例が、リュウマチです。リュウマチの炎症を起こす分子は特定されており、その分子だけを標的に、効果的に抑える薬が、それです。 免疫チェックポイント阻害薬 それから、免疫チェックポイント阻害薬です。 最近、その代表格であるオプジーボが話題になっていますが、大変高価な薬です。一人当たり、何千万円もかかるのが現状です。 これまでは、がんといっても種類があって、その種類に対して、飲む薬がそれぞれ違うというものでした。 これは、発想を変えて、各人の免疫細胞に注目して、その攻撃力を高めて、全種類のがんに立ち向かうようにしようというものです。 それは、警察の犯罪捜査に例えるなら、がん対策本部は、がんという犯人を見つけ、捕捉するために、捜査員を増やし、並行して、指名手配のポスターをたくさん印刷して、各捜査員に配るということをしていくものです。 そうやったにもかかわらず、免疫療法は、これまで、なかなかうまくいきませんでした。 がんを守るものがあって、それが邪魔をして、なかなか免疫細胞が、がんを探せず、攻略できないでいたのです。 それを、がんを守る鎧兜を、すっと取り払うことができるようになったのが、新しいところで、それが、免疫チェックポイント阻害薬です。 鎧兜の役をしているタンパク質の働きを解除するものです。 この薬によって、がんは丸裸になって、免疫細胞の攻撃が効くようになります。 そういう力のある薬が、オプジーボであり、キイトルーダ、ヤーボイ、BCGなどです。 がんで悩んでおられた方には、これは朗報です。(2018年のノーベル賞を受賞された本庶佑先生の研究によりうまれたのです。) 反面、保険はききますが、大変高価なために、全体の医療費を押し上げるという、悩ましい問題があります。 がんゲノム医療 これら免疫療法の薬は、段違いに高価であり、本当に効くかどうか、あらかじめ見通しが立った上で、使いたいものです。 そこで、遺伝子解析までやろうということになってきました。 ゲノム医療というのが、それです。 まず、がん標準治療が、広がってきたことについてお話しします。 これまで、医師によって、がんの治療法がまちまちでした。 ちまたの根拠の不確かな治療補ではなくて、医学的に実証された治療法を、標準治療と読んでいます。 医学的根拠に基づいたガイドライン、エビデンスのある、専門医が推奨する治療法です。 それで、全国どこでも標準治療が受けられる体制作りが、政策として広がっています。 同時に、部位別に受けられる標準治療の項目は、広げられています。 先進医療と保険適用 これまでお話しした、がん治療の3つの柱、切る、飲む、照らすが、標準治療として認められているものです。 しかし、それでもがんが治らない人が多いので、標準治療の範囲を超えた、ちまたで口コミなどで広まっているような治療法が行われています。 それらのなかに、先進医療というもののがあります。 これは、健康保険法に基づいて保険が適応される以前の、一応、エビデンスがあるとされるものを、こう呼びます。 そして、先進医療は、AとBに分類されており、Aは28種類、Bは、さらにたくさん指定されています。 これまでは、標準治療と先進医療は、一緒に受けることはできませんでした。 これは、混合医療といわれるものですが、保険が適用されるものと、そうでないものを同時に受けると、全部、自由診療扱いになっていました。 それが、先進医療については、標準治療との混合を認めて、標準治療部分の保険適用を認めるとなってきました。これは、大きな進歩です。 いずれにしても、先進医療は、かなり高額です。 昔は、人間の遺伝子解析するのに、3000億円かかりました。 今は、一人5万円でできます。技術の進歩で、昔の3000億かけて得られた結果と全く同じ結果が出るようになってきています。それで、その遺伝子解析技術が先進医療に含まれていますので、信頼度が高まったことで、混合診療が認められるようになったというわけです。 こうして認められている先進医療は、現時点で92種類になりますが、そのうち比較的エビデンスが高いとされているのが、先進医療Aの28種類です。そのうち、さらに科学的根拠が得られれば、保険適応の可能性が高まるとみられています。 それは例えば、ロボット支援手術です。前立腺がんと腎臓がんにしか認められなかったものが、今年4月からは、胃がん、直腸がん、肺がんなど、7種類のがんに対象が広がっています。 陽子線、重粒子線手術についても、患者数の多い前立腺がんについても保険が使えるようになりました。 このように、だんだん先進医療は、国策もあって保険適用に近づいています。 高額医療費制度 ただ、先ほども申し上げましたが、先進医療は高額であることが、非常な難点となっています。 そのことについては、日本にとっての救いは、高額医療費制度があることです。 一人の人が、300万円かかったとしても、標準的な所得の人であれば、本人負担は10万円で済むという制度です。 これがあるので、例えば数千万かかっても、本人は10万円だから、先進医療を選択できることになります。 ただ、健康保険の当局にとっては、その差額を保険で出すわけですから、大変です。国民の税金が、その一人のために、何人分も投入されることになるのですから。 一方で、自分ががんになって、先進医療で助かるとしたら、それを受けたいと誰もが思うことでしょう。 この辺のことは、どう考えるかです。 プレシジョン医療 最先端の言葉として、プレシジョン医療があります。
プレシジョンとは、的確化ということです。 中村祐輔先生という東大の名誉教授で、ずっとアメリカでこれを研究をされて、日本に戻って来られた先生がおられるのですが、総花的ながん治療ではなくて、個人個人の遺伝子を解析して、個々に将来なりそうな病気を特定するという研究です。 この遺伝子のせいで、この病気になった、あるいは、この病気になる可能性が高いと診断して、特定された遺伝子に対応する薬を作る。そうして病気に立ち向かおうというのが、プレシジョン医療です。 これまでは、リキッドバイオプシーといって、液体、つまりは血液や唾液、大便や尿など、体から出るものを取ってがん細胞を検出しておりましたが、最新の傾向は、遺伝子を取って、遺伝子をチェックすることからからがんを見つけるようになってきています。今は、ものすごくお金がかかりますが。 AIによる診断へ さらに、もう1つ登場してきたのが、人工知能、AIです。 よく、がんを見逃したから亡くなったと、問題になります。 人間の目で見ると、どうしても見落としがあります。 私どものクリニックでは、三重にチェックします。 まずその場で、続いて院長が見て、そして最後に、専門家に見てもらいます。 それでも見落としがあります。 今の医療現場は、専門が細分化されており、例えば肝臓がんの専門家に脳のがんを見つけるのは難しいこととなっていて、専門外のがんは見つけにくくなっているのです。 そこで、AIによる診断へと向かいます。データが集積されて、AIによれば、映像データから過去の例を見つけ出して、これは、あのがんだと、9割がた正確に見つけられるようになってきています。 そして、この人工知能の開発と集積された膨大な情報から有用情報を引き出して治療にあてていこうとするプレシジョンのなかから、免疫療法へとつながっていきます。 プレシジョン先進国 アメリカ プレシジョンという言葉が広く知られるようになったのは、2015年のこと、アメリカのオバマ大統領(当時)が一般教書演説において「今後、アメリカがプレシジョン医療のイニシアチブを取って推進する」と宣言したことからです。 以来、アメリカは、プレシジョンのリーダーになることを目指して、全世界からこの分野の研究者を集めて力を入れてきましたから、プレシジョンでは一番、アメリカが進んでいます。 オーダーメイド医療 このプレシジョンは、いわばオーダーメイド医療です。あなたに合わせた、がん対策をしますということです。 日本においても、これはますます重要な研究になり、国もしっかり予算をつける必要があると思います。 人の全遺伝子情報は、2001年に解読されましたが、当時、その費用は、先ほども申し上げた通り、3000億円かかりました。 今は、一人当たり、5万円で、隔世の感がありまして、この遺伝子解析によって、患者さんのがんの個性に合わせた薬の開発をすることが見えてまいりました。 つまりは、一人ひとりのがんの個性に合わせた、がん治療の取り組みが、今、始まっているということです。 データヘルス計画とがん治療体制への適用 先に、私どもの取り組んでいることで、データヘルス計画があります。レセプトといいますが、国民健康保険では3割負担、後期高齢者では1割が本人負担で、残りを地方自治体と国が税金から補填するという制度のなかで、医療機関がそれを請求するために各自治体に提出する書類があって、その診療報酬請求書を点検すると、一人ひとりの健康状態が見えるようになります。 このレセプトの点検と個々の健康管理をつなぐシステム、データヘルスを開発したのは、広島のデータホライズンという会社で、代表取締役社長の内海良夫さんは、私と同級生ですが、20年かかって、膨大な情報の分析によって、その人が今、どういう健康状態にあるか、わかるようになりました。 例えば、レセプトのなかから、血糖値の推移がわかります。その進み具合から、このままでは人工透析に進みかねないといったことが見えてくるわけです。 レセプトが出てこなければ出てこないで、病院に行っていないことがわかりますから、適切な治療がされていないことが見えてきます。 こうして見えてきたことをもとに、例えば「透析にならないようにするために、食事の内容を変えましょう。もっと運動をしましょう」等々、個人に対して、的確な助言ができるようになります。 そして、その助言も、看護師資格があって、なんらかの理由で医療現場から離れている人材がいますから、その休眠看護師を使って、一対一で直接、その人に合わせた指導をできるようにしました。 これは、広島県の呉市の場合ですが、指導を拒否された場合を除き、捕捉したなかでは、3年間、透析に進んだ人は一人も出なかったという成果となりました。 一人の人が透析になると、年間600万円かかります。 これが使われなくて済めば、大きな医療費の削減、適正化ですし、なによりも、透析になれば、かなりの時間、拘束されることを思えば、本人にとってこれほど良いことはありません。 さらに、レセプトの点検で、後発薬、ジェネリックを推進するのに、個人宛の通知をするようにしたら、それまでは他人事で、その切り替えは進まなかったのが、なんと9割の人が切り替えとなりました。 呉市は、26万人の都市で、国民健康保険の加入者が7万人ですが、この切り替えによって、1億6000万円の医療費削減となりました。 そのような、レセプト点検による様々な効果で、トータルで数億円の削減ができて、呉市では、一般会計からの補填がいらなくなりました。 それで、これを、がん治療についても、一人ひとりに合わせて活用すれば、個人にとっても有益であり、大きながん治療体制の進歩につながるものと期待されています。 リスクを減らす5項目 要は、がんにならないようにすることが、一番大事です。 そのためには、発がんさせる要素を取り除くことです。 がんにならないために、どうすればいいのか。 まず、国立がん研究センターが発表した、がんになるリスクを減らすための5項目を紹介します。 1番目は、禁煙すること。2番目は、節酒です。やめろとは言いません。適度にすることです。3番目は、体を動かす。4番目が、適正体重の維持。5番目は、食生活の見直し・改善です。 3番目の体を動かすということでは、前にお話ししたスロージョギングやインターバル速歩などが効果的ですし、あるいはサイクリング、散歩でも、ちょっと速歩を入れたりでもいいと思います。 4番目の体重の維持では、毎日、同じ時間に同じ体重計で計って、その数字を見ながら日々、過ごせば、基礎体重を増やさないように管理できます。 5番目の食生活では、できるだけ健康的な食品を摂り、バランスの良い食事をするということです。 ともかくこの5つの健康習慣を実践した場合、国立がん研究センターの発表では、がんになるリスクが、男性で43%、女性で37%低下したとのことです。 以上、この5項目と、リスク低減の数字は、国の機関が国の予算を使って調査したものですから、エビデンスのしっかりしたデータといえることから、ここで取り上げました。 ALCOの取り組み これらに関連して、以前もお話ししましたが、私どもは、一般社団法人でアンチエイジング・リーダー養成機構、ALCO(アルコ)を作って活動しています。 食事と運動と生きがいの3つに注目して、健康寿命を伸ばしましょうという目的で立ち上げたもので、会長は元順天堂大学大学院教授の白澤卓二先生、名誉会長に三浦雄一郎さん。そして、専務理事が雄一郎さんのご子息で元冬季オリンピック選手、医学博士の三浦豪太さん、最近は冬季オリンピック放送での名解説で有名です。また、今日出席の清水さん、六本木二三子さんも理事になっております。私は、常務理事で、事務方をさせていただいております。 ALCOの名前は「歩こう」に通じており、山歩きなどの運動を基本に、健康に良いものを食事に提供して、福岡や大分の湯布院、新潟など、様々なところで、1泊2日ないし2泊3日で、アンチエイジング・セミナーをやっております。 参加者の皆さんの感想では、10歳は若返るとのことです。参加費も廉価に抑えております。 地道ではありますが、このような食事と運動と生きがいの3つを柱に、がん予防を含めた健康増進に寄与したいと考えています。 この丸の内朝飯会も、朝早くから勉強しようとのことですから、3つの柱の1つである生きがいの創出に寄与しており、病気にならない、がんにならない生活習慣のお手本の会の1つであると思います。 もんげーバナナの可能性 最後に、健康な食品の提供という観点で「もんげーバナナ」をご紹介します。 これは、岡山の田中節三さんという方が考案した凍結解凍覚醒法を用いて、岡山の気候で栽培されたバナナです。 その田中節三さんの講演記録(田渕隆三作品展オープニングにて 津山市くらやアートギャラリー 2018年4月10日)より一部をご紹介します。 「私も20年前になりました。2人に1人ががんになる時代ですから、がんになるのも当たり前かもしれません。 これは、私の持論ですが、がんは、薬では良くなりません、病気ではないのだから。あれは、化学物質の汚染で細胞がヤケドして壊れているだけです。 がんは、薬で治そうとするのではなくて、原因物質が体から出ていくようにしないといけません。 お医者さんを悪くいうつもりはありませんが、私の場合は、胆のうがんでしたが、4カ所に転移していて末期のステージ4でした。私はそのとき、40代で、医者には、若いからだいたいあと1年の命と言われました。それと、元気なうち、頭がしっかりしているうちに遺書を書いておくようにとも勧められました。 いろいろ文献を読むなかで、ドイツの免疫学者の文献に、がんは細い血管を通して人間の血液から糖だけを吸収して生きているとありました。がんは、血液のなかの糖以外、何も吸収できない。それに対して、人間の健康な細胞は、脂肪を分解してエネルギーに変えたり体を作ることができる。といったことが書かれてありました。 それを知ってから、私は、手術後でしたが、ブドウ糖の点滴も抗がん剤も切ることにしました。ブドウ糖なんてものは、がんの良質なエサですから、あんなものを打ったら終わりです。 一切の糖質を断ち切った後、牛肉を食べてタンパク質を取るようにしました。それも、岡山県産の和牛です。 医者には、そんなことをしたら、1週間で低血糖で死んでしまうと言われました。 その頃は、抗がん剤の投与で髪の毛は抜けるし、食べることもできないし、苦しい毎日が続いていました。それで、私は思いました。1週間で死ねるのなら、それもいいではないかと。それほど苦しい思いをしていましたから。 医者の言うことを聞かずに、思うようにして、牛肉のステーキを1口、1口食べていったところ、3日目、4日目くらいで体は調子良くなってきて、1カ月で元気を取り戻しました。 そして、3カ月で病院を追い出されました。どうしてかと言うと、ものすごく調子が良くなったので、焼酎に手を出すようになったからです。病院から、風紀を乱すから、出て行ってくれとなりました。 それ以来、今までがんにはなっていません」(田渕美術工房会報誌『人間の港』第63号より) ここに書かれている考え方は極論といわれるかも知れませんが、これだけがんにかかる人が増えた原因は、やはり日頃口にする食品にあるということです。 発がん物質を含む農薬等に汚染された食品をはじめ、様々な化学物質を、われわれはたくさん体内に取り込んでしまっているということです。 それと、検診の精度が高まって、小さながん細胞でも発見されるようになってきたという面があるとも思います。 昔は、がんで亡くなっても、がんとわからないうちに亡くなった場合も多くあったのではないかと、推測されます。 この両方の原因で、2人に1人が、がんになる時代となりました。 ともかく、これからは、がんと共存する時代です。 がんになることは、恥でもなんでもない。悲観することもない。 がんと一緒に楽しく仲良く暮らす。それぐらいの気概でいることだと思います。 がんに限らず、病気になったら、共存しながら前向きに進んでいくという生き方をもつことが大事ではないかと思っております。 それで「もんげーバナナ」ですが、その凍結解凍覚醒法は、遺伝子操作や化学肥料、農薬の使用はしない栽培法です。 植物が、地球上の何度かの氷河期を生き残ってきた事実に注目して、栽培しようとする作物の種や成長細胞を、氷河期の気候である零下60度まで緩やかな速度で下げて、その後、解凍したところ、眠っていた本来の能力が覚醒し、覚醒した土地の気候に適合して成長するというものです。 その成功例が「もんげーバナナ」で、岡山の気候でも、見事な実がなるばかりか、ほぼ3倍の速さで成長します。 その名の「もんげー」とは岡山の方言で「ものすごい」という意味だそうですが、その通り「もんげー」な農法です。 田中節三さんは、自身のがん体験から、人々にがんの危険性のない良いものを提供することになると、これを広めようとされています。 さらに、様々な作物が、これまで育てられなかった土地で栽培が可能になることから、世界の食料事情の改善につながるものとも期待されています。 私どもも、その趣旨に賛同し「もんげーバナナ」をはじめ、凍結解凍覚醒法を広めることに尽力したいと思っております。 アジア財団との連携 それに関連して、この前、田中節三さんとベトナムに行ってきました。 アジア財団という組織の理事長がおられて、もともとパチンコで財をなした人ですが、戦争で悲惨な体験を持つ方との出会いをきっかけに、儲けを社会貢献に使いたいと、アジア財団、世界は1つという組織を作って、世界、とくにアジアの約330の大学に講座を開設して、講演会を開いています。実に貴重な活動だと思いました。 出会った人の悲惨な戦争体験というのは、ノモンハンかどこかの戦場で、部隊は大敗北を喫し、自身も砲弾でやられて瀕死の状態で死体の山に投げ込まれたところ、奇跡的にある医師に発見され、香港の病院に送られて意識を取り戻したという体験です。 そして、日本に戻ってくるのですが、戦死したと思われていて、自分の名前が消されていました。 それで、自分とは何か、名前とは何かを、深く考えるようになります。 徹底して追究するなかで、結局は、各自がエゴを捨てる以外に世界は変わらないと、結論付けます。 この「名もないおっちゃん」と、パチンコ屋のオーナー、こちらは名前は佐藤さんですが、3年前に出会って、オーナーは衝撃を受けます。 そして「お前が後を継げ」といわれた佐藤さんは、全財産をつぎ込んで、アジア財団を立ち上げたというわけです。 その佐藤理事長と一緒に、田中節三さんと共に、ベトナムに行ってきました。 その時のメインの講演者は元アメリカ副大統領のアル・ゴアさんでしたが、田中節三さんの講演の方に傾聴に値するものがありました。 その凍結解凍覚醒法では、たとえシベリアの気候でも、バナナやパパイア、コーヒーができるという話は、世界の農業を変えるものです。 さらに、この方法で覚醒した植物は、体力が強くなり、様々な菌やバクテリアなど、外敵に負けません。 これによって、まったくの無農薬での栽培が可能となりますから、健康な食品を人々が口にできるという、世界の人類の希望となります。 農薬は、アメリカの会社が日本のほか世界で広く販売しており、それに比例するように、がんにかかる人が増えている。 田中さんは「あれだけ農薬を撒いたら、がんにならないわけがない」と、いわれます。 私は、この田中さんを支援したいと思っています。 来年は、韓国で、アジア財団の会合が開かれます。主役の講演者は、田中節三先生です。 モンゴルの広い土地を利用して、北朝鮮から20万人の労働者を招いて作物を栽培して、世界的な農場を作ろうとの計画も立ち上げました。 以上、夢のある展望をお話しして、締めといたします。ご静聴ありがとうございました。 《Q&A》 【質問1】 遺伝子解析の現状は、どのあたりまできているのでしょうか? 〈竹岡〉私は専門家ではないので、正確なところは言えませんが、例えば数千万円する薬を使う前に、その人にどこまで効果が期待できるか、遺伝子解析で、わかるようになってきていて、かなり実用分野まで進んでいるということができます。 ただ、遺伝子を組み替えて、病気を治そうということは、一切やっていません。それは、倫理上の問題がありますし、悪い結果を招くこともありますから。 【質問2】 血液検査によるがんの検診は、どの程度、信頼性があるのでしょうか? 〈竹岡〉同じく専門家ではないので、信頼性の話はできませんが、私どものクリニックを見る限り、必ず血液検査をやります。それから、お酒を飲む男性の場合、毎年、大腸がんの検査を必ずやります。女性の場合は、毎年しなくてもいいとしています。 ともかく、何にも検診を受けないというのは良くありません。血液検査でも、かなりのことがわかりますし、それを毎年受けていけば、経年変化がわかって、その人の傾向が見えてきます。 |